入った部屋には十数人のおじさん達がいた。定年になってから数年、いや十年くらいの年齢が多いだろうか。毛髪料の匂い、すだれ頭、完璧なツルッパゲ‥、現役時代は部下にさぞ口うるさかっただろう。
今日は彼らの前で、基本的な選挙の話をしなければならない。選挙まであと半年だ。進めていかねばならないことは山ほどある。まずは選挙の法則とこれからの進行案をスケジュールと共に説明していく。聞いているのかいないのか、殆どが口をへの字に曲げている。
「ポスターを貼っていくのは大変な苦労と労力を必要としますが、選挙区内で最低でも〇〇枚は貼りたいところです。ここで知名度に影響を及ぼすのは〇〇枚です」
私は(どうせ無理だな)と思った。口ばかり達者で体は動かない典型的なおっさんばかりだ。ポスター効用の疑義だとか言い出すに違いない。顔にそう書いてある。ところが予想に反して彼らは非常に的確だった。一人が音頭を取って、テキパキと役割分担や目標などを話し始めたのである。
「だってやらなきゃ、しょうがないだろ?」
彼らは自分らで作っている将棋サークルの仲間だった。選挙をやりたくない人間には、今日は声をかけていないという。「そうは言っても、あいつらにもタイミングを見て、やるべき事は陰ながらやってもらわないとな」非常にシステマティックで、かつ心得ている。
こういうおっさんらを初めて集めると、大体がまとまらない。選挙に向かって一致団結とは、なかなかならないものだ。あーだこーだと自論を展開しつつ、実際の活動につながっていかないのが相場だ。だから一方的なお願い、義務のやり取り〜交渉の場と化してしまう。それに反して彼らのこの素晴らしさはどうだろう。
もう後援会を大きくしなくても良いのではないか、私はそう思った。大きな後援会を作るよりも、志や候補者との距離感が似ている人たちの小集団がたくさんあって、それぞれが活動をしていく方が機能的である。三人寄れば一つの集団、居酒屋の客が集えば即後援会のスタートだ。時代なのか風潮なのか、千人集会、二千人集会もグッと減った。そんなのはもう、選挙直前に一回やれば十分だ。
リモート会議も悪くないが、事務的な事項の論議や伝達に限られる。特に候補者本人の熱意を伝えるには適合しない。選挙にはそれぞれのお国柄もあるが、小さな後援会をいくつも持つ候補者がこれからの選挙戦を制するに違いない。
将棋仲間のおっさんたちに謝りたい。見た目で判断した私が悪かったです。
コメント